2008年5月1日木曜日

主夫と生活

かの伊丹十三が翻訳した『主夫と生活』は愉しい本だ。ハーバード大学卒業の成功したコラムニストである著者が、40歳にして突然引退し、家庭の主夫として過ごした1年間の日々を、軽妙な筆致で、というかあちこちで爆笑してしまうほど楽しげに書いたものである。大の男が慣れない家事でヘマをこき、抜け目のない子供らに振り回され、親や友人から奇異な目で見られ、クーポン券を集めたりして性格がしみったれていき、という具合で話が進んでいく。70年代のアメリカということもあってか、結婚とかジェンダーとかの問題にも興を殺がない程度でさりげなく触れられている。

この本を初めて読んだのは高校生くらいのときだと思うが、もともと現世逃避的な性格なので一読してすっかり気に入ってしまい、将来は「主夫」になると決めてしまった。

以来、20年以上経ったが、結婚して子供も出来たものの、経済的な問題のためなかなか主夫にはなれない。それどころか、昼は会社で仕事、朝晩は家事をする「兼業主夫」という最悪の展開になっている。現実は生易しいものではない。

「主夫」という言葉は今ではすっかり認知されているようで、wikipediaにも主夫の項目があるし(Googleで"主夫"で検索すると真っ先に表示される)、主夫ブログみたいなのもけっこうあるようだ。ただ、もともとは伊丹十三がこの本を翻訳したときに冗談半分で作った造語だと思う(僕の持っている本では、表紙のタイトルの"夫"の字だけ青で強調されている)。僕の記憶では、それ以前にこのような言葉は無かった。ちなみに本書の英語の原題は "My Life as a Househusband" となっているので、househusbandが原語でそれを「主夫」と訳したようだ。

とっくに絶版になっているみたいだけど、古本が安く手に入る。ちなみに伊丹十三のお父さんの伊丹万作も本業は映画監督ながら筆が立つ人で、この人のエッセイはちょっと日本の作家にしては珍しく理系的な鋭さが感じられる秀逸なものだ。エッセイ集(伊丹万作エッセイ集 )と全集(全3巻)がある。残念ながら全集は簡単には手に入らないみたいだが、図書館にあればタダで読める。