日本の従来型ソフトウェア業界で働く者としてこの本を一言で言い表すとすれば、「IT土方と対極にある働き方」だ。
情報とインターネット接続、コンピューティング能力がタダ同然になった今、とびきり優れた"スマート・クリエイティブ"を集め、自由を与えて彼らのずばぬけた技術力と行動力を最大限に活用し、革新的なプロダクトや技術を次々に世に出すことで巨大な成功を収めることができる、というのがこの本の趣旨。言うまでもなくそれを実践しているのがGoogleというわけだ。
逆に言えば、従来型の企業はあまりにもスピードがのろく、組織が硬直化しすぎている。従来型企業の企業文化や価値観とGoogleを対比させると以下のようになるだろう。
1. マーケティング重視 vs プロダクト重視
従来型企業では営業とマーケティングが一番重要で、優れたプロダクトの開発は二の次だった。Googleは革新的なプロダクトを生み出すのが第1だ。
"古い世界では持てる時間の30%を優れたプロダクトの開発に、70%をそれがどれほどすばらしいプロダクトかを吹聴してまわるのに充てていた。それが新たな世界では逆転した。" (ジェフ・ベゾス)
"プロダクトラインの再検討を実施したところ、あるパターンが浮かび上がったのだ。優れたプロダクトはいずれも事業上の戦術ではなく、技術的要因によって成功を収めていたのに対し、それほど結果を挙げていないプロダクトはどれも技術的な個性を欠いていた。"2. 計画と確実性重視 vs スピード重視、トライアンドエラー
従来型企業は計画重視、そして立てた計画を確実に遂行することに腐心した。Googleは計画よりもスピード重視だ。先にやってみてうまくいかなければ別のやり方を試す。そうして走りながら考える。
"劇的に優れたプロダクトを生み出すのに必要なのは巨大な組織ではなく、数えきれないほどの試行錯誤を繰り返すことだ。つまり成功やプロダクトの優位性を支えるのは、スピードなのだ。"
"すべてがコントロールできていると感じるのは、十分な速度が出ていないサインだ" (マリオ・アンドレッティ)。
3. 整然とした管理機構 vs. カオス
従来型企業では、階層型の組織と業務プロセスが整備されており、組織の命令系統にしたがって正しい手順で業務を遂行する。Googleはそんな悠長なことはやってないし、そうすべきだとも思っていない。
"ヒエラルキー型の、業務プロセスの整った組織のメリットは、誰と話せばいいかが簡単にわかることだ。正しい組織図の正しいコマを見れば、話すべき相手の名前が書いてある。しかし、インターネットの世紀で成功するベンチャー企業の定常状態はカオスである。"
"事業は常に業務プロセスを上回るスピードで進化しなければならない。だからカオスこそが理想の状態だ。"4. 漸進的 vs 革新的
Googleは小さな改善から始めない。最初から革新的なプロダクトをめざす。
"顧客の要望を聞いていたら、速い馬を探しに行っていただろう" (ヘンリー・フォードが言ったとされているが、おそらくそうではないらしい)。
この本はすばらしい本だが、実際のところ日本のIT土方型企業にとってはあまり実践的とはいえない。この本には、旧態依然の分厚い組織の中で、業務プロセスだのコンプライアンスだのに忙殺され、恐ろしく忙しく働いているのになぜか顧客価値を生み出す活動はほとんどできず、メンタル不調で一人また一人と人が抜けて行き、空疎でありきたりなビジョンにみんながうんざりしているような組織で成果を上げることについては、別な本を探してくる必要がある (もしあればだが)。